みなさん劇画、読んでますか。
などと訊かれて「ハイ読んでます!」というのはけっこう少数派だと思います。
そもそも劇画とは? 発祥や定義自体にすでに議論がありますが、そのへんはWikipediaなどご参照ください。
皆さんのイメージとしては「昭和に流行った、やたら顔もキャラも濃い連中が出てくる漫画」あたりでしょうか。
たしかにジャンルとしての劇画の全盛期は1960年代〜70年代くらいだと思います。
でも、劇画は以降の漫画に決定的な影響を与えました。そしてその系譜は現在にも、脈々と受け継がれているのです。
たとえば多くの劇画で原作を手掛けた、小池一夫先生。
この人が主催した「劇画村塾」の卒業生を見ると、漫画好きな方は思い当たるふしもあるんじゃないでしょうか。
濃いですね。濃いキャラ。濃いメンツです。
それもそのはずで、小池先生は「キャラ立ち至上主義」を標榜しておられました。著書なども読むとその思いがうかがえます。
ストーリーよりキャラ立ちを重視する姿勢は、特に現在の少年漫画でも顕著ですね。
『ジョジョの奇妙な冒険』で知られる荒木飛呂彦先生もストーリーよりキャラに比重を置いているようです。
でも、それは決してストーリーをないがしろにしているわけではないのです。むしろキャラが立てば立つほど、ストーリーもおもしろくなります。
なぜか? それは例えば、ケンシロウがケンシロウであることを、範馬刃牙が範馬刃牙であることを、JOJOがJOJOであることを、追求すればするほど、作中でキャラ同士が激しくぶつかりあうからだと思います。
話が横道にそれてしまいましたが、「いま連載中の少年・青年漫画は好きでよく読むけど、ちょっと昔の劇画は読まない」という方にぜひ読んでいただきたいのが、この名作。
小池一夫×小島剛夕の『子連れ狼』。
何となく「大五郎と父ちゃんが乳母車で旅する話」というのは知っている方も多いと思います。
映画やアメコミが好きな方なら「タランティーノやフランク・ミラーに影響を与えた作品」ということもご存じかもしれません。
でも、40代以下でちゃんと読んでおられる方はそう多くないように思えるので。この場で、その面白さをおすすめしたいのです。かくいう私も数年前に全巻一気読みしてファンになったわけなんですが。
あらすじ
宿敵・柳生烈堂に妻を殺され、地位を追われた公儀介錯人の拝一刀は復讐を誓う。そして生き残った一子の大五郎と共に刺客『子連れ狼』として、冥府魔道をゆく。
柳生烈堂率いる裏柳生との戦いなどを除けば、基本的には1話完結型です。
刺客として旅する拝一刀・大五郎父子の前には、さまざまな「キャラ」が立ちはだかります。野盗やスリ、侍や浪人や忍者、町人や博徒や僧侶、小さな子どもにいたるまで…。
そんな登場人物たちに対して、拝一刀はどこまでも拝一刀、大五郎はどこまでも大五郎です。
まったくブレない。迷わない。
シビれます。
刺客にとって、子連れであることは明らかにハンディキャップです。しかし二人は敵に対してはものともしない。ただし、父は父、子は子であらんとしているがゆえに、意外な弱さもはらんでいます。
それは「母」の不在です。
大五郎だって、幼い子どもなのです。甘えたい時もある。でも、武士の子であらんとして、グッとこらえている。この部分にもグッときます。
私は数年前に娘が生まれ、この作品がもっと好きになりました。幸い妻は健在ですが。人生というのは、辛く悲しいこともある、いわば冥府魔道なのであると。進むしかないのであると。そんな風に主人公と自分を重ねてしまうのは、私だけではないと思います。
このキャラと、ストーリーの魅力を何倍にも引き立てるのが、小島剛夕先生の絵です。
一見すると「これぞ劇画」というような荒々しい筆致ですが、大五郎の子供らしいしぐさを描く時の繊細な表現も見逃せません。
コマ割りも私は大好きです。連載から40年以上経ったいま見てもスタイリッシュです。大見開きで剣と剣が交差するシーンや、乳母車が大通りをゆくシーン、追手の集団が早馬で駆け抜けるシーンなど、フランスのバンドデシネやアメリカのグラフィックノベルのようです。…というか、本作がフランスやアメリカの漫画と漫画家に多大な影響を与えたのですが…。
版権の都合上、ここでお見せできないのが残念ですが、ぜひ見て、読んでいただきたい。まずは電子書籍のサイトで数話だけ試し読みでもいいでしょう。
全部で28巻もあるので、本棚に揃えれば場所も手間もかかりますが、電子書籍ならスマホ一台に全巻収まってしまいます。ebookjapanなら、初回ログインで6冊が70%OFFになるクーポンがついてきます。
ちょっとずつ読みたい方は全28巻のバージョンを。
全部割引で一気読みしたい方は、3冊に凝縮された「新装超合本版」で。
若山富三郎主演の映画も名作として名高いですね。あわせておすすめしたいです。
全28巻中のベストエピソードについてもまた、別の記事で述べたいと思っています。では。
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